自家がんワクチン療法
自家がんワクチン療法 個人情報保護方針 お問い合わせ サイトマップ
自家がんワクチン療法

ドクター通信
ドクター通信 from セルメディシン アーカイブ

一般向けトピックス 2008年分は → こちらです
一般向けトピックス 2007年分は → こちらです
一般向けトピックス 2006年分は → こちらです
一般向けトピックス 2005年分は → こちらです
一般向けトピックス 2004年分は → こちらです
一般向けトピックス 2003年分は → こちらです
一般向けトピックス 2002年分は → こちらです
自家がんワクチンについて ネットテレビ でみるなら → こちらです

       
   
ご注意とお願い

 以下の記事は、セルメディシン株式会社の研究者が集めた話題を、がんワクチン療法に興味ある専門家のために提供しているものです。慎重に記述はしておりますが、筆者の嗜好、誤解等が混入している可能性がありますことを、あらかじめご了承願います。

       最新号はメール配信しております。受信ご希望の方は → メールで申し込み をどうぞ。
       Dr.通信 from セルメディシン 2008年分  → こちらです
  No.

187


 
09.07.29
1.抗体の殺がん細胞作用の新しいメカニズム:ライソゾームバースト
2.FDA承認獲得のための抗がん剤新薬開発コスト
     
 今回はASCOのニュースから2題転載します。

1.抗体の殺がん細胞作用の新しいメカニズム:ライソゾームバースト
  (July 21, 2009配信)

 抗体ががん細胞表面に結合してがん細胞を殺すメカニズムとしてはこれまで、
  (1)ADCC(Antibody-dependent cellular cytotoxicity、抗体依存性細胞傷害作用):がん抗原に抗
    体が結合し、結合した抗体のFc部をNK細胞やマクロファージが認識し、標的細胞を殺す作用。
  (2)CDC(Complement-Dependent Cytotoxicity、補体依存性細胞傷害作用):抗原と抗体との複合
    体などにより補体結合が促進されることによって、標的細胞を殺す作用。
  (3)直接作用:増殖因子やそのレセプターを介した、ADCC/CDC非依存的な標的細胞のアポトーシ
    ス誘導作用

が知られておりましたが、このほどInanovら(1)は、
  (4)抗体が抗原に結合した後、細胞内のライソゾームをバーストさせ、遊離したライソゾーム酵素が
    細胞内を破壊する、
という殺細胞メカニズムを発見したそうです。このメカニズムを亢進させる化合物を発見できれば、新しいタイプの抗がん剤として登場するかもしれません。

2. FDA承認獲得のための抗がん剤新薬開発期間とコスト
  (July 28, 2009配信)

 本邦でも抗がん剤開発に時間とコストがかかりすぎることが問題になっていますが、本邦よりは早くてコストも安いと言われている米国でも、臨床医の視点から見ると事情は同じようです。

 FDAはAccelerated approval (AA)というプログラムを始めておりますが、それでも、承認獲得まで6億ドルのコストと7年の時間がかかると報告されています(2)。資金的に豊かといわれる米国のバイオ企業でもここまでは負担しきれない、がん患者も待てないとこの記事には記載されています。

 弊社は本邦独自の自由診療制度を利用して、「自家がんワクチン」療法を展開しておりますが、「最先端の治療法をすばやくしかも低コストで患者様に届ける」という視点からすれば、この自由診療制度は大きな意味があります。ただし、安全性と効果に十分自信があってのことであるのは言うまでもありません。
 
 
REFERENCES

1. Andrei Ivanov et al.:
Monoclonal antibodies directed to CD20 and HLA-DR can elicit homotypic adhesion followed by lysosome-mediated cell death in human lymphoma and leukemia cells.
J. Clin. Invest. doi:10.1172/JCI37884.(http://www.jci.org)

2.Accelerated FDA approval of cancer drugs may take about seven years, study indicates.JCO News, July 28, 2009
  (原報:Elizabeth A. Richey et al.: Accelerated Approval of Cancer Drugs: Improved Access to Therapeutic Breakthroughs or Early Release of Unsafe and Ineffective Drugs? JCO Early Release, published online ahead of print Jul 27 2009. J Clin Oncology, 10.1200/JCO.2008.21.1961)

  No.

186


 
09.07.22
ある種の樹状細胞はかえってがん抗原提示能力を阻害する
     
 6月24-25日に小倉で開催されました第13回日本がん免疫学会で、九大から、マウスではある種の樹状細胞が、別の樹状細胞の抗原提示能力をかえって阻害するという発表がありました。
  →  中原剛士、古江増隆(九大医学部)、Cyclophosphamide enhances immune response by modulating dendritic cell subset balance and dendritic cell functions. 第13回日本がん免疫学会、一般口演4-樹状細胞1、小倉、2009.06.24.

 抗がん剤シクロフォスファミドはリンパ球数を一過性に激減させることが知られていますが、樹状細胞(DC)にも影響します。

 マウスの樹状細胞は、組織由来遊走型(m DCs)、リンパ組織在住型(rDCs)、プラズマ細胞様(pDCs)の3種類に分類されます。さらにこれらはそれぞれCD8+型とCD4+型に分類できます。

 低用量のシクロフォスファミドは皮下のリンパ節や脾臓にあるCD8+型のrDCを選択的に殺しますが、皮膚由来のmDCへはあまり影響を与えません。このように相互のバランスが崩れた樹状細胞群は、抗原提示能力が増強されていましたが、この状態に体外からCD8+型 rDCを注入してやると、せっかく増強された抗原提示能力が阻害されてしまうとのことでした。

 ヒトにおけるがんの樹状細胞ワクチン療法では、このような検討はまだされておりません。そのため現在は、マウスのCD8+型 rDCに対応する阻害型を含むヒト樹状細胞群を体外からがん患者さんに注入している可能性があります。今後、問題とされる可能性があります。

  No.

185


 
09.07.22
腫瘍血管新生阻害剤はがん転移を促進する
     
 米国癌学会誌の一つ、Clin. Cancer Res.の7月15日号のPerspective欄に、米国立がん研究所(NCI)から出された短いコメント論文が出ています(1)。

 なんと、「がん転移研究学会(MRS)理事会は、腫瘍血管新生阻害剤がなぜ患者の生存率にマイナーな効果しかないのかあるいは全然ないのかを解明した論文(2, 3)の著者を賞賛する」というものです。

 腫瘍血管新生阻害剤には、大別すれば、アバスチンのようなVEGF阻害剤とスニチニブのようなVEGFレセプター阻害剤のタイプがありますが、承認薬であるにも関わらず、全体として生命予後があまり延びないという欠点があります。この原因として疑われていたのが転移促進効果があるのではないかという点です。

 上記の2つの論文は、がんの原発巣の増殖は抑制しても転移はかえって促進することを動物実験モデルで証明したのが特徴です。

 原発がんモデル実験と、転移がんモデル実験では、種々の抗がん剤の効果が異なっていること、例えば、cyclophosphamideはマウス実験で肺がんに対する治療効果がありますが転移はかえって促進する効果があること(4)が知られています。

 弊社の自家がんワクチンは、術後肝がん再発抑制効果や、術後残存脳腫瘍治療効果があることが判明しておりますが、腫瘍血管新生阻害剤によるがん転移促進作用を抑制するという期待もできるのではないでしょうか。今後の検討を待ちたいと思います。

REFERENCES

1. Patricia S. Steeg, Robin L. Anderson, Menashe Bar-Eli, Ann F. Chambers, Suzanne A. Eccles, Kent Hunter, Kazuyuki Itoh, Yibin Kang, Lynn M. Matrisian, Jonathan P. Sleeman, Dan Theodorescu, Erik W. Thompson and Danny R. Welch.: Preclinical Drug Development Must Consider the Impact on Metastasis. Clin. Cancer Res. 15: 4529, 2009.

2.Paez-Ribes M, Allen E, Hudock J, Takeda T, Okuyama H, Vinals F, Inoue M, Bergers G, Hanahan D, Casanovas O.: Antiangiogenic therapy elicits malignant progression of tumors to increased local invasion and distant metastasis. Cancer Cell 2009;15:220-31.


3.Ebos JM, Lee CR, Cruz-Munoz W, Bjarnason GA, Christensen JG, Kerbel RS. Accelerated metastasis after short-term treatment with a potent inhibitor of tumor angiogenesis. Cancer Cell 2009;15:232-9.

4.Man S, Zhang Y, Gao W, Yan L, Ma C. Cyclophosphamide promotes pulmonary metastasis on mouse lung adenocarcinoma. Clin Exp Metastasis 2008;25:855-64.

  No.

184


 
09.07.05
3種類の樹状細胞でシクロフォスファミド感受性が異なる
     
 6月24-25日に小倉で開催されました第13回日本がん免疫学会で、九大から、樹状細胞のsubsetについてシクロフォスファミド(CTX)に対する感受性が大きく異なるという発表がありました。

 化学療法と免疫療法の併用が進む中、Tregへの影響を解析した研究は多いのですが、DCへの影響を見た研究は少ないのが現状です。

 マウスのDCはtissue-derived migratory DCs(migratory DCs)、Lymphoid tissue-resident DCs(resident DCs)、plasmacytoid DCs(pDCs)に分類できます。

 低ドーズのCTXは皮下のリンパ節や脾臓にあるCD8+resident DCを選択的に殺しますが、皮膚由来のmigratory DCへはあまり影響を与えないそうです。Resident DCはCTX投与4日後が底になるように減少し、7-14日目には元に戻ります。このとき、特にCD8+ resident DCが減ることが特徴だそうです。

 このようにimbalanceをおこしたDC群は、抗原提示能力が増強されていましたが、この状態のマウスに体外からCD8+ DCを注入してやると、せっかく増強された抗原提示能力が阻害されてしまうとのことでした。

 しかし、一方で、CD4+ DC(CD8- DC)を体外から注入しても大きな変化はなかったといいます。

 ヒトにおけるがんの樹状細胞ワクチン療法では、このような検討はまだされておりません。そのため現在は、マウスのCD8+ resident DCに対応する阻害型を含むヒトDC群を体外からがん患者さんに注入している可能性があります。今後、問題とされるでしょう。

REFERENCES

1. 中原剛士、古江増隆(九大医学部)、Cyclophosphamide enhances immune response by modulating dendritic cell subset balance and dendritic cell functions. 第13回日本がん免疫学会、一般口演4-樹状細胞1、小倉、2009.06.24.

  No.

183


 
09.06.18
ASCO2009報告--その3
     
 今年のASCO2009が、米国フロリダ州オーランドで、5月29日から6月2日まで開催されました。弊社が独自に収集した情報から、がん免疫分野の話題を提供します。
  今回は、6/12発信のASCO2009報告--その2の続きです。

1.がんワクチンと抗体療法のコラボレーション

 前立腺がんは、PSAという非常に良い腫瘍マーカーがあるため、腫瘍の進行状態がかなり精密に把握しやすいのですが、転移しホルモン療法不応性となった場合、治療が難しくなります。

 PSA, ICAM-1, LFA-3, B7.1をコードするpoxviral vectorであるTRICOM vaccineと抗CTLA-4抗体ipilimumabを併用したPhase I試験(30例)で、ipilimumab濃度を1, 3, 5, 10 mg/ kgとした結果、3および5mg/kgの患者9例においてmTTP=6.1 months, mPSA doubling timeは5.9 months (baseline
に比較し2.2 months延長)でした。また、2例でRECIST法評価によるPRが確認されています(1)。

 TRICOM vaccineとipilimumabの併用は、副作用をコントロールしやすく効果も見られたとしていますが、個々の薬剤と比較した時の優位さを今後検証する必要があるとのことです。

 今後は、このようながんワクチンと抗体療法の組み合わせが多数検討されていくものと思われます。

REFERENCE

1. Phase I trial of targeted therapy with PSA-TRICOM vaccine (V) and ipilimumab (ipi) in patients (pts) with metastatic castration-resistant prostate cancer (mCRPC).
M. Mohebtash, R. A. Madan, P. M. Arlen, M. Rauckhorst, K. Y. Tsang, V. Cereda, M. Vergati, D. J. Poole, W. L. Dahut, J. Schlom, J. L. Gulley;
J Clin Oncol 27:15s, 2009 (suppl; abstr 5144)

  No.

182


 
09.06.12
ASCO2009報告--その2
     
 今年のASCO2009が、米国フロリダ州オーランドで、5月29日から6月2日まで開催されました。弊社が独自に収集した情報から、がん免疫分野の話題を提供します。
  今回は、6/8発信のASCO2009報告--その1の続きです。

1.制御性T細胞(Treg)浸潤が多い方が治療成績がいい!?

 現在では「腫瘍組織中に浸潤したTregは局所でキラー細胞の活性阻害をする」という概念が普及していますが、これと矛盾する臨床成績が示されています(1)。

 転移性大腸がん症例に、化学療法と免疫療法の併用であるGOLFIG(gemcitabine, oxaliplatin, 5-FU/FA, IL2, GM-CSF)を施行、FoxP3+ T細胞浸潤スコアと予後の相関について、FOLFOX治療症例群も取り混ぜて比較したところ、41人の全患者における、Treg high群、low群を比較した際、OS, TTP共に
high群において延長が見られた(OS: 55.7 vs 28.9 months, TTP: 18 vs 9.4 months)。この中でも特にGOLFIGによる治療を行った患者でのhigh 群における延長が顕著であり、OS: 68.1 vs 41 months, TTP: 20.8 vs 11.6 monthsであったと報告しています。

 6/8発信のASCO2009報告--その1の「2.多型膠芽腫に対するEGFRvIII ペプチドワクチンCDX-110の効果」の報告でも、実は、「CDX-110ワクチン+テモゾロマイド 100 mg/m2×21/28 days」という処置をした[ActUB] 群では、治療後に末梢血中のCD45RO+, CD4+中のTregの割合がワクチン接種前に比較し有意に上昇しているという現象が見出されております。

 Tregの動向は、上記のような「腫瘍組織中に浸潤したTregは局所でキラー細胞の活性阻害をする」ために予後を悪化させているのだ、という単純化した想定には合わないかもしれません。今後、慎重な検討が必要です。

2.再発脳腫瘍に対するベバシツマブの効果

 ベバシツマブ(アバスチン)は5月5日にFDAから標準治療後に再発したGBM症例への適用が認められています。
  → http://www.cancer.gov/cancertopics/druginfo/fda-bevacizumab/print?page=&keyword=#Anchor-Glioblastoma

 今年のASCOでもGBMに対するベバシツマブの発表がたくさんありました。承認されたプロトコールは2週間間隔で10mg/kg投与ですが、それを変更し、15mg/kgを3週間間隔で投与したところ(2)、61例の再発脳腫瘍(GBM 50, AA 5, AO/AOA 7)で奏効率はPR 15, SD 31, PD 15となったとの報告がありました。

 再発後の予後の報告は非常に少ないのですが、この報告では、median PFS was 3.9 m; median OS was 6.6 mだったそうです。今後、この数値を超えることが、新規開発治療法を評価する一つの指標とな
るでしょう。

REFERENCES

1. Association of immune-regulatory (FoxP3+)-T-cell tumor infiltration status with benefit from chemoimmunotherapy with gemcitabine, oxaliplatin, 5-FU/FA plus GM-CSF and aldesleukine (GOLFIG) in metastatic colon cancer patients.
P. Correale, P. Tagliaferri, M. T. Del Vecchio, C. Remondo, C. Migali, K. Y. Tsang, M. S. Rotundo, F. Fulfaro, P. Tassone, G. Francini; Medical Oncology Siena University, Siena, Italy; Medical Oncology Unit, Catanzaro, Italy; Patology Section, Siena, Italy; Laboratory Tumor Immunology and Biology , Bethesda , MD; University of Palermo, Palerno, Italy
J Clin Oncol 27:15s, 2009 (suppl; abstr 3045)

2. A phase II trial of single-agent bevacizumab given every 3 weeks for recurrent malignant gliomas.
J. J. Raizer, S. Grimm, L. Rice, K. Muro, J. Chandler, C. Tellez, A. L. Mellot, S. Newman, M. K. Nicholas, M. Chamberlain; Northwestern University Feinberg School of Medicine, Chicago, IL; Northwestern University, Chicago, IL; University of Chicago, Chicago, IL; University of Washington, Seattle, WA
J Clin Oncol 27:15s, 2009 (suppl; abstr 2044)

  No.

181


 
09.06.08
ASCO2009報告--その1
     
 今年のASCO2009が、米国フロリダ州オーランドで、5月29日から6月2日まで開催されました。弊社が独自に収集した情報から、がん免疫分野の話題を提供します。

1.モンタナイドアジュバントとDC療法の免疫刺激能をランダマイズド試験で比較

 特異的がん免疫刺激法では、最近、樹状細胞(DC)療法が多用されていますが、その免疫刺激能はどのくらいか、意外にも定量的評価がなされていません。そこで、伝統的な免疫刺激剤・モンタナイドISA 51 VGと、臨床でしかもランダマイズド試験(HLA-A2+、resected stage IIb-IIIc melanoma 計51例)で比較しています(1)。

 ワクチン抗原としてはペプチド(Melan-A,gp100,Tyrosinase,MAGE-3, NY-ESO-1,FluM1)とタンパク(KLH)を使用、ワクチン投与前後で免疫モニタリング試験を行い、モンタナイドとDC(18 million DCs were given i.d. every 4 weeks x 4)による違いを検討、IFNγELISPOT、MHC multimer、リンパ球増殖、anti-KLH抗体ELISAを調べています。

 その結果、ほぼ全ての場合でモンタナイドがDCの能力を上回るというデータとなりました。1例を挙げれば、

ELISPOT response rates
---------------------------------------------------------
      FluM1 Melan-A NY-ESO-1 gp100 MAGE-3 Tyrosinase
---------------------------------------------------------
DCs     33%   5%    0%     0%    0%    0%
Montanide 80%  90%    45%    10%    0%    0%
p value*  0.004  <0.001  <0.001  NS    NS    NS
----------------------------------------------------------
*Fisher's exact test

でした。結果的にみれば、がんペプチドワクチンを構成するには、伝統的なモンタナイドにがん抗原ペプチドとKLHを使用すれば良く、あえてDC細胞を使用する必要はないということになります。

 しかし、それでもがんペプチドワクチン単独療法による臨床上の有効性は、残念ながらまだ証明されているとは言えない状況で、現在は抗がん剤との併用療法が盛んに検討されています(典型例が下記の2.です)。

2.多型膠芽腫に対するEGFRvIIIペプチドワクチンCDX-110の効果

 弊社からの「ドクター通信 from セルメディシン No. 51」(2006.06.14発信)と、「ドクター通信 from セルメディシン No. 174-修正」(2009.04.03発信)で既に予報を出していましたが、M. D. Anderson Cancer Centerの Heimberger らのグループによる、「膠芽腫(GBM)の変異したEGF receptorであるvariant V(EGFRvV)」に対するペプチドワクチンのPhase IIランダム化対照臨床試験結果が、今回のASCO2009でついに全貌が報告されました(2)。

 EGFRvVは膠芽腫(GBM)の31-50%に発現している表面蛋白で、正常組織ではほとんど発現していないものです。そのため、症例のプレスクリーニングが可能です。また、このペプチドワクチンCDX-110は、KLHタンパクを結合させて抗原性を高めています。

 しかも、彼らの主張は、”Despite conventional dogma, we demonstrated that chemotherapy and immunotherapy can be delivered concurrently without negating the effects of immunotherapy.”と
主張、CDX-110とテモダール(TMZ)を同時投与して治療に成功した膠芽腫の症例報告を出しており(3)、多数例によるPhase II臨床試験で期待をはるかに越える長期生存を達成したと予告していたものです(4)。

 今回の発表では、初発でEGFRvIII (+)GBM患者に、手術による
切除+ RT+TMZ(75mg/m2/day×RT中毎日)の標準治療後に、2週間おきに3回、その後は腫瘍の増大が起こるまで月に1回のワクチン接種を行っています。

 ワクチン追加接種の際、CDX-110単独群[Activate群(n = 18)]、CDX-110+TMZ 200 mg/m2×5/28 days[ActIIA群 (n = 13)]、CDX-110+TMZ 100 mg/m2×21/28 days[ActIIB群 (n=10)]、の3群の比較対象試験を行っています。

 結果は、ActUの全ての患者において、grade 2〜3のリンパ球減少が起きたにも拘らず、EGFRvIIIに対する免疫反応はTMZ投与中にも持続、若しくは上昇しています。

 また、OSのMSTは、Activate=26.0(months), ActIIA=23.6, ActIIB=19.9、TTPがActivate=14.2, ActIIA=18.5, ActIIB=14.9であったとのことです(ActUのOSは未だ調査中の数字)。
(注:切除+RT+TMZの標準治療後ですから、Activate群でも時差併用ということになります)。

 因みにTMZのみの標準治療(matched histrical control)の場合はOS=15.0, TTP=6.3(months)ですから、今回のどの群も長いOS、TTPを達成しています。

 ただし、23例で再発が見られ、18例ではEGFRvIIIの発現が失われたいた(p = 0.001)ことから、明らかにimmune editingが起こったと推測されます。この点がやはりペプチドワクチン療法の限界かもしれません。

REFERENCES

1. Comparison of the immunogenicity of Montanide ISA 51 adjuvant and cytokine-matured dendritic cells in a randomized controlled clinical trial of melanoma vaccines. D. W. O'Neill, S. Adams, J. D. Goldberg, J. B. Escalon, L. M. Rolnitzky, C. M. Cruz, A. Angiulli, L. Old, A. C. Pavlick, N. Bhardwaj; NYU Langone Medical Center, New York, NY; Memorial Sloan-Kettering Cancer Center, New York, NY. J Clin Oncol 27:15s, 2009 (suppl; abstr 3002)

2. Epidermal growth factor receptor variant III (EGFRvIII) vaccine (CDX-110) in GBM. A. B. Heimberger, G. E. Archer, D. A. Mitchell, D. D. Bigner, R. J. Schmittling, J. E. Herndon, T. Davis, H. S. Friedman, T. Keler, D. A. Reardon, J. H. Sampson; University of Texas M. D. Anderson Cancer Center, Houston, TX; Duke University Medical Center, Durham, NC; Celldex Therapeutics, Inc., Philipsburg, NJ. J Clin Oncol 27:15s, 2009 (suppl; abstr 2021)

3. Heimberger AB, et al.: Immunological responses in a patient with glioblastoma multiforme treated with sequential courses of temozolomide and immunotherapy: Case study. Neuro-Oncology 10: 98?103, 2008.

4. Sampson JH, et al.: Tumor-specific immunotherapy targeting the EGFRvIII mutation in patients with malignant glioma. Semin Immunol. 20: 267-75, 2008.

  No.

180


 
09.06.03
ASCO2009の最新情報から--化学療法におけるQOLの定量的評価
     
 今年のASCO2009が、米国フロリダ州オーランドで、5月29日から6月2日まで開催されました。弊社からも社員が参加、情報収集にあたっていますが、さすがに日経メディカルは報道機関だけあって速報を流しています。
→ http://medical.nikkeibp.co.jp/inc/all/gakkai/asco2009/

 その中で、6月1日に掲載された記事に、「Vandetanibとドセタキセルの併用でNSCLCの無増悪生存が延長、症状も軽減」という肺がんに関するものがあります。
→ http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/gakkai/asco2009/200906/510954.html

 M. D. Anderson Cancer Centerが主体になった大規模無作為化二重盲検フェーズIII試験「ZODIAC」の結果報告ですが、
  「主要評価項目であるPFSの中央値は、vandetanib+ドセタキセル群で4.0カ月、プラセボ+ドセタキセル群は3.2カ月、ハザード比は0.79(97.58%信頼区間0.70-0.90、p<0.001)と、vandetanibの追加投与でPFSは有意に改善した。」
とあり、また、
  「奏効率(ORR)はvandetanib +ドセタキセル群では17%、プラセボ+ドセタキセル群では10%(p<0.001)、6週間以上の病勢コントロール率はそれぞれ60%、55%であった(p=0.060)。」
とまでは良いのですが、
  「全生存は統計的に有意ではなかったが、vandetanib +ドセタキセル群で10.6カ月、プラセボ+ドセタキセル群は10.0カ月と、併用群でやや良好な結果を示した、p=0.196)」
という、あまりいただけない結果になっています。

 はたして、全生存率が延びない分子標的薬の追加治療に意味があるのか、議論のあるところだと思います。

 ただ、この試験の救いは、「FACT-Lを用いて、肺癌の症状(息切れ、体重減少、思考、咳、食欲、胸部圧迫感、呼吸)を評価したところ、vandetanib +ドセタキセル群の方が有意に改善していた(ハザード比 0.77、p<0.001)。安全性に関しては、新たな有害事象の発現は見られなかった。」という点で、ようやく化学療法でも、安全性データと並行して、FACT-Lによる患者のQOL変化の定量的評価が行われるようになってきた点です。

 がん免疫療法分野では、「自家がんワクチン」も含めて、ほとんどの種類のがんワクチンで、QOLの低下をもたらす報告はなく、面倒なFACT-Lによらず、定性的にみてさえも全く問題ない方法ばかりです。

 免疫療法単独による短期的な奏効率(ORR)は化学療法に比べて低いかもしれませんが、一般にSDが多く発生し、全生存率が延びる傾向が見られます。今後、確かに全生存率が延びるという、大規模試験による証明が出てくれば(数十億円レベルの巨額な費用がかかります)、将来的には化学療法をしのぐ治療法に発展する可能性があります。

  No.

179


 
09.05.26
ソラフェニブの適用が肝がんに拡大
     
 腫瘍細胞増殖と腫瘍血管新生の両者をターゲットとする分子標的薬ソラフェニブ(商品名ネクサバール)は、本邦では既に腎がんにたいして国の承認を得て市場化されていますが、この5月21日に肝細胞がんにも適用を拡大できるように、厚労省の認可を獲得しました。

 弊社では、一般に分子標的薬はその高い特異的作用メカニズムから、理論上、自家がんワクチンと併用しても問題ないという方針をとってきております。今後、肝がん治療においても、ソラフェニブと自家がんワクチンの同時併用も臨床現場では起こり得るものと予想されます。

 しかし、分子標的薬は、ときに強い副作用を表すことがあります。ソラフェニブにおいても、「急性肺障害、間質性肺炎があらわれることがあるので、呼吸困難、発熱、咳嗽等の臨床症状を十分に観察し、異常が認められた場合には速やかに胸部X線検査等を実施すること」
  → http://www.mhlw.go.jp/shingi/2009/05/dl/s0508-4h.pdf
との注意喚起がなされています。

 また、ネクサバール錠の副作用収集状況一覧(速報)も公開されています。
  → http://www.mhlw.go.jp/shingi/2009/05/dl/s0508-4h.pdf

 他の分子標的薬、例えば腎癌に使用されるスニチニブ(商品名スーテント)でも、「白血球減少(85.2%)、好中球減少(82.7%)、貧血(58.0%)があらわれることがある」との重大な副作用情報が添付文書にあり、上記の一般論が適用できない場合もあります。

 これらの情報に十分注意の上、自家がんワクチンとの併用を行う際には、できれば、末梢血リンパ球数が1000ヶ/mm^3を割り込まないような分子標的薬の投与状況下で、併用をお願い申し上げます。

  No.

178


 
09.05.18
アメリカ癌学会(AACR2009)の話題から-その3
       
 今年のアメリカ癌学会(AACR2009)はコロラド州デンバーにて4月18日から22日まで開催されました。

 以下、その中からがん免疫に関係する話題を前回と前々回に続けてお送りします。

 マクロファージには、がん細胞の殺傷効果がある一方で、腫瘍形成の促進作用があることが従来から知られていましたが、通常型のマクロファージ免疫反応サプレッサー型に分別できることが最近知られてきていて、前者がM1、後者がM2と分類されています。

 今回、AACRに出たポスター発表では、Yingらが、すでにM1とM2型マクロファージの役割の違いについて、確定的に書いていました(1)。すなわち、

「Macrophages exhibit a classical, or M1 phenotype, that have the ability to destroy invading pathogens and cancer cells. In contrast, macrophages with the alternative, or M2 phenotype, can promote cancer progression by producing interleukin-10 (IL-10), matrix metalloproteinase 9 (MMP9), and other pro-tumorigenic chemokines. Tumor associated macrophages (TAMs) were shown to display a M2 phenotype and the accumulation of TAMs at tumor sites has been shown to correlate with poor prognosis in various types of cancer.」

 ヒトM1マクロファージは、末梢血単核球分画にGM-CSFを、M2マクロファージはIL4 + IL13を添加して72時間培養し誘導しており、遺伝子発現パターンが明瞭に異なることを示していました。

 一方、シンポジウムで講演したCoussensによれば(2)、肺癌マウスモデルで、CD4+ Tが腫瘍内へのmacrophage infiltrationをコントロールしている、immature macrophageのmaturationとphenotypeはTh1, Th2のサイトカインの影響を受け、それぞれM1, M2型になるという話でした。

 マウスから一歩進め、この話をヒトがんに外挿するときに、アイルランドの乳癌データを引用していました。ヒト乳癌では、「CD4 density low, CD8 high, CD68 low」のグループが、low highそれぞれ逆の「CD4 density high, CD8 low, CD68 high」グループに比べてOSが長く(p=0.005)、生命予後のpredictorになっているということです。この場合、CD68がマク
ロファージのマーカーになっています。

 マクロファージの腫瘍内浸潤は、必ずしも喜ぶべきものではないようです。今後、がん免疫療法分野では、「M2型マクロファージをどうコントロールするか」は、Th1とそれに続くCTLの誘導、Tregの抑制、と同様に重要課題となってきました。

REFERENCES

1. AACR2009 abst.#4137 CD11b+ peripheral blood mononuclear cells with induced M1 and M2 phenotypes demonstrate significantly different gene expression profiles. Chi Ying, Joseph Washburn, James MacDonald, Kenneth J. Pienta. University of Michigan Comprehensive Cancer Center, Ann Arbor, MI.

2. AACR2009 4/21 Symposia
Inflammation and Cancer: Mechanisms Regulationg Pro-tumor Immunity
-- Pulmonary metastasis potentiated by CD4+ T lymphocytes and M2 macrophages. Lisa M. Coussens, Univ. California Comprehensive Cancer Center, San Francisco, CA

  No.

177


 
09.05.14
アメリカ癌学会(AACR2009)の話題から-その2
       
 今年のアメリカ癌学会(AACR2009)はコロラド州デンバーにて4月18日から22日まで開催されました。

 以下、その中からがん免疫に関係する話題を前回に続けてお送りします。

 ワクチンと化療の併用効果があるという総説を書いたHodgeのグループからの発表がありました(1)。今回は、化療後のリンパ球回復期に、ワクチン投与をした場合をマウスでテスト、Tregも減るかをみたものでした。マウスにyeast-CEA vaccineを投与、データは確かに2桁Tregを下げています。また「(b) cisplatin plus vinorelbine combined with
heat-killed recombinant yeast-CEA vaccine (i) is superior to either modality alone at reducing tumor burden and (ii)
increases vaccine mediated antigen-specific T-cell responses.」と結論していましたが、マウスの生存カーブのデータは結構苦しい状態でした。

 Paluckaらは(2)、NY-ESO-1-specific T regsを発見(Vence et al. PNAS 104, 20884-9; 2007)、10人のメラノーマ症例でlow dose Cytoxan administration (300 mg/m2 iv)でこの変化を追い、2例でIL-10 分泌の減少とTreg減少を見いだしていましたが、逆に4例ではIL-10とTregの増加がでていました。low dose Cytoxanが一定の効果を示さないのはこの
ためではないかとディスカスしています。

 4月20日のmeet-the-Expert Sessionでは(3)、Imiquimod(樹状細胞やマクロファージなどに発現しているToll-like receptor 7に直接結合し、シグナルを伝えることによって、タイプ1インターフェロンを誘導し自然免疫を活性化する。表在型基底細胞癌(BCC)に有効とされ、欧米ではアルダラRクリームとして販売)を開発しているグループから、Biomarker研究の現状に関する講演がありました。
 
  多数の論文をずらりと並べた上の結論は、「Biomarkerの論文群は、まだ十分信頼できる状態にない。Biomarkerの決定には、PFS, OSと対比してmultiple markerをみるべきだ、multivariate analysis, Hazard ratioの計算が必要だ」というものでした。

 要するに、ものすごい量の臨床試験データを蓄積しないと、信頼できるBiomarkerは策定できないということです。地味なこの作業に耐えられる研究室は日本ではあるでしょうか。
 
REFERENCES

1.AACR2009 abst.#363 Chemotherapy can enhance the therapeutic potential of vaccine-mediated immunotherapy. Sofia R. Gameiro1, Jorge Caballero1, Jack Higgins1, Amanda Boehm1, Alex Franzusoff2, Jeffrey Schlom1, James Hodge1. 1Laboratory of Tumor Immunology and Biology, Center for Cancer Research, National Cancer Institute, National Institutes of Health, Bethesda, MD; 2GlobeImmune, Inc., Louisville, CO.

2.AACR2009 abst.#714 Melanoma antigen specific Tregs and immune response to vaccination with dendritic cells. Anna Karolina Palucka, Joseph Fay, Jacques Banchereau, Hideki Ueno. Baylor Inst. for Immunology Research, Dallas, TX.

3. AACR2009 Meet-the-Expert Session, Immunologic Biomarkers: Measuring Immune Stimulation and suppression.
Mary L. Disis, Univ. Washington, Seattle, WA

  No.

176


 
09.04.30
アメリカ癌学会(AACR2009)の話題から-その1
       
 今年のアメリカ癌学会(AACR2009)はコロラド州デンバーにて4月18日から22日まで開催されました。雪のロッキー山脈が美しい遠景をなすアメリカ中西部のでっかい田舎町という雰囲気のデンバーには、約1.7万人が参加したといいますが、第4日目になったらグンと参加者が減少、どの会場も空きが目立つようになっていました。しかし、さすがに学会の中
味は濃いものでした。

 以下、その中からがん免疫に関係する話題を何回かにわけてお送りします。

 全体としてがん免疫療法は、Phase III trialで成功したものがどの製薬会社の製品でもまだ1つもないため、Rosenbergの養子免疫療法を除いては、元気がありません。Dendreon社のProvengeの最終データの報告がAACR
2009の直後の4月28日から始まるAm. Urol. Assoc.でなされる予定で、それに期待が集まっています。現状は、いかにしてがん免疫抑制系の細胞群(Treg, Th17, Macrophage 2, DC2)とそれらを制御するサイトカイン(IL-10, 他)の影響を避けるか、が重くて大きな課題となっています。

 Rosenbergの養子免疫療法については4月21日に講演が2つありました(1, 2)。要点は、以下のとおりです。
------------------------------
  ・「がんワクチンには腫瘍の治療効果がほとんどない、CD8+ killerの誘導能のみでは不十分だ(参照:Tumor progression can occur despite the induction of very high levels of self/tumor antigen-specific CD8+
T cells in patients with melanoma. J. Immnol. 175:6169, 2005)。

 ・ワクチンの臨床試験ではdisease-free adjuvant settingsに可能性がある(現在、「IL-2+peptide」ワクチンでrandomized trialが進行中)。

 ・ワクチンによる効果のうち、SD(stable disease)の貢献度合いはrandomized trialで評価すべきだ、そのときに様々な種類のsoft criteria を使用したのでは混乱のもとだ、histrical controlと比べるのもバイアスが多すぎる、それでもがん免疫療法の将来にoptimismがあるのは、養子免疫療法で好成績が出ているためだ。

 ・我々の養子免疫療法では、transfer of large no. of T cells to melanoma patients with TBI(total body irradiation) 1200 cGyを行っている。メラノーマ(n=25)では、72%の奏効率が出ている(2)。
 
Treatment   Total  PR  CR  (%)  
--------   ------ ---- ---- -----
No TBI      43    17   4   (49%)
(77+,45+,34+,29 (75+,70+,60+,59+) 28,14,13,11,8, 8,7,4,3,3,2,2,2)  

200 cGy TBI  25    11   2   (52%)
(45+,41+,35+,14, (49+,38+) 10,6,5,5,4,3,3,)

1200 cGy TBI 25    11   7   (72%)
(26+,19+,19+,19+, (29+,19,25+,25+,13,7,6,6,5,4,3) 19+,19+,18+)
-------- ------ ---- ---- ----
(52 responding patients: 42 had prior IL-2, 21 had prior IL-2 + chemotherapy)
* All patients with metastatic melanoma received a preparative regimen of cyclophosphamide (60mg Kg/day x2d) and fludarabine (25 mg/m2/day x5d) either with no total body irradiation (TBI) or with 200 or 1200 cGy TBI followed by the administration of autologous TIL plus IL-2 (720,000 IU/Kg q 8 h). 
(( ))の中がCR症例の生存期間

 ・これから学ぶべきは、genetically engineered peripheral blood lymphocyteの利用だ(→ Science, 314: 126-9, 2006)。このために使用するTCR geneは、1個のTILが取れればそこから調製し、ウイルスに組み込んで使える。

 ・我々がRECIST評価法を使っているのはrandomized trialが困難だからだ。
  → 個々の症例ですぐ結果がわかる。もちろん(SD増加による)OS延長、QOL上昇も重要だが、randomized trialで証明しなければならないという面倒さがある。
------------------------------

 CR症例では巨大メラノーマが消失している例のオンパレードがありました。これだけ煽られた会場の聴衆(ほとんどががんワクチン研究者)はシュンとなっていました。Rosenberg自身は、討論の中で、ワクチンの将来性に言及し、「Tolerance and anergyをどうするか、ワクチンはこのチェックポイントを克服できなければならない、我々の養子免疫療
法では手術と同じようなことをやっている(全身放射線照射など)、Tregをselectiveに除去すべきだ、anti-CD25抗体ではTregの約15%しか排除できない、anti-CD25-immunotoxinが良いかもしれない。」というアイデアを述べていました。

 会場では、がんワクチンの効果をアップするため、抗がん剤との併用可能性が議論され、また、ポスターでは動物実験の見事な併用実験結果が示されていましたが、この点の臨床応用については、検討中のところが多いようです。後続のドクター通信にて話題提供します。

 ☆★ なお、弊社では、Rosenbergの否定するsoft criteriaを逆手にとって、自家がんワクチンの効果を“おおまかに” 計測する手段として使用しています。

 ソフトクライテリアは、厳密な学術的批判に耐えうる評価基準ではありませんが、実は、傍で患者をみている家族がびっくりするほどのQOL改善があったというような“ヒトでなければわからない効果”を“おおまかに”計測するには有用だからです。

 ・その解説はこちらをご覧下さい。
   → http://www.aftvac.com/hc-sc-what.htm

 ・ソフトクライテリアを用い、自家がんワクチンの効果を「改善率」として数値化した表はこちらにあります。各種のがんを総合してみると、35%の症例でなんらかの改善効果が観測されています。
   症例数が増えれば増えるほど、「改善率」の数値の信頼限界は狭まり、信頼性の高い一定の数値に収束していく見込みです。
   → http://www.aftvac.com/vaccine2-2efficacy.htm
 

REFERENCES

1. AACR2009 4月21日 NCI/NIH-Sponsored Session
"Cancer Vaccines: Do They Work?"
Moderator: Drew M. Pardoll, Johns Hopkins Univ., Baltimore, MD
Speaker: 1) Steven A. Rosenberg, NCI, Bethesda, MD

2.AACR2009 4月21日 #SY35-3 Effective cell transfer therapy for patients with metastatic melanoma. Steven A. Rosenberg. National Cancer Inst., Bethesda, MD.

  No.

175


 
09.04.09
多発がんも1個のがん細胞から発生する--遂にヒトで証明
       
 4月8日着信のASCOからのニュースで、解剖学的には多発性と診断された肺癌のほとんどが、たった1個の肺がん細胞由来であることが、遂にヒトで証明された(Ref. 1)、とのことです。

 “がん”は、体内の1個の正常細胞が変異し、自律的な増殖能を獲得、増殖過程でさらに変異を繰り返しつつ悪性化し腫瘤に育ってから“がん”として認識される、というのが筆者が理解しているがん発生の多段階説ですが、動物実験では確認されていても、ヒトで、しかも、見かけ上まるで異なる(病理所見でも似てはいるがやはり異なる)がんが一つの器
官に出来ている場合に、はたしてこれがわずか1個のがん細胞由来なのかどうかは、これまで不明でした。定説化している学説であっても、ヒトでの証明がいかに難しいかを表す事例だと思います。

 この難題にチャレンジしたのがインディアナ大のグループで、多発性肺がん症例30例(がん組織としては全部で70個)、うち26例がnon?small cell carcinoma、4例がcarcinoid/atypical carcinoid tumorsでした。

 このがん組織をパラフィン包埋組織からレーザーマイクロデセクション法で切り出しゲノムDNAを抽出、loss of heterozygosity (LOH), TP53 mutations, and X-chromosome inactivation statusを分析したところ、多発肺がん間でLOHパターンが完全一致したのが26例 (87%、95% CI = 75% to 99%) 、TP53にpoint mutationがある10例のうち同一point mutationがあったのが8例、女性23例のうち全く同じX-chromosome inactivation パターンが見つかったのが18例(78%、95% CI = 67% to 98%) ありました。

 これらを合わせると、30例中23 例(77%、95% CI = 62% to 92%)が全く同一の遺伝子変異を持つ、すなわち同一症例の異なる肺がんでも、たった1個のがん細胞由来だと結論づけています。

 この結論から推定すれば、がん細胞が増殖する過程で見かけ上異なるがん組織が複数できているとしても、もともとは一個のがん組織とみなすことができ、それを治療すればよい、ということになります。

 摘出がん組織をまるごとがん抗原として使用する「自家がんワクチン」は、もとのがん組織にがん抗原が発現さえしていれば、一つの摘出がん組織を用いても多発性の残存がんに対応できる可能性が十分あります(もちろん、多発性のがん組織がそれぞれ入手できるならば、それらの微妙な違いをすべてカバーできるよう、できるだけ多くを混合してワクチン原料とすることも可能です)。

REFERENCES

1. Xiaoyan Wang, Mingsheng Wang, Gregory T. MacLennan, Fadi W. Abdul-Karim, John N. Eble, Timothy D. Jones, Felix Olobatuyi, Rosana Eisenberg, Oscar W. Cummings, Shaobo Zhang, Antonio Lopez-Beltran, Rodolfo Montironi, Suqin Zheng, Haiqun Lin, Darrell D. Davidson, Liang Cheng. Evidence for Common Clonal Origin of Multifocal Lung Cancers. J Nat Cancer Inst Advance Access published online on April 7, 2009.
doi:10.1093/jnci/djp054

  No.

174


 
09.04.03
がん化学療法は、がん免疫反応のアジュバントになっている
       
従来より、「抗がん剤治療はがん免疫反応を抑制する」とドグマティックに信じられてきましたが、必ずしもそうではない、というデータが蓄積しつつあります。

 例えば、脳腫瘍治療に用いられるテモダールについては、Heimbergerらは、”Despite conventional dogma, we demonstrated that chemotherapy and immunotherapy can be delivered concurrently without negating the effects of immunotherapy.”と主張、彼らの創成したペプチドワクチンCDX-110とテモダールを同時投与して治療に成功した膠芽腫の症例報告を出しており(1)、多数例によるPhase II臨床試験で期待をはるかに越える長期生存を達成したと報告しています(2、Full paperは未発表、詳細はおそらく今年のASCO2009に登場するでしょう)。

 しかし、それだけではなく、更に一歩踏み込んで、「がん化学療法の結果、がん免疫反応を抑制する抑制性T細胞(Treg)やミエロイド由来サプレッサー細胞(MDSC)を逆に抑制することによって、かえってがん免疫反応を促進する」という総説が発表されています(3)。

 この総説では、全体で90報の原著論文を引用していますが、低用量のcyclophophamideをメトロノーミックに投与することによってワクチン効果をはるかに増大できること、gemcitabineやamino-biphosphonateによってMDSCを抑制しワクチン効果を増強できること、等について述べ、抗がん剤のがん免疫反応への影響は、抗がん剤の直接的な殺がん細胞効果によるがん抗原スプレッディングにとどまらない、としています。

 また、逆に、先天性免疫不全の乳がん患者ではanthracyclinが効き難く、抗がん剤の効力にも免疫能が影響する例にも言及しています(総説内引用文献77)。

 免疫反応によるがん細胞のeliminationは、免疫監視機構の重要な機能の一つとして古くから議論されてきていますが、抗がん剤の治療効果でさえも(全部ではなく一部だけであっても)免疫反応を介しているとなると、強力な抗がん剤の処方により体内の免疫担当細胞までほとんど殺してしまうような化学療法を継続するのは、考え込まざるを得ません。

 今後は、“免疫能を生かすがん治療”の重要性がますますアップしていくのではないでしょうか。

REFERENCES

1. Heimberger AB, et al.: Immunological responses in a patient with glioblastoma multiforme treated with sequential courses of temozolomide and immunotherapy: Case study. Neuro-Oncology 10: 98-103, 2008.

2. Sampson JH, et al.: Tumor-specific immunotherapy targeting the EGFRvIII mutation in patients with malignant glioma. Semin Immunol. 20: 267-75, 2008.

3. Menard C, Martin F, Apetoh L, Bouyer F, Ghiringhelli F: Cancer chemotherapy: not only a direct cytotoxic effect, but also an adjuvant for antitumor immunity. Cancer Immunol Immunother 57:1579-1587, 2008.

  No.

173


 
09.03.25
自家がんワクチン療法--ソフトクライテリアによる評価表を更新  
          --訂正:集計値と症例記述--
        先週3月18日に発信しましたセルメディシンニュースNo.89にて、自家がんワクチン療法受診例(投与未満で中止した55例を除き)、291例を対象としたソフトクライテリア評価の一覧表を更新したことを報告いたしましたが、この中で、「脳腫瘍」と「胃がん」に関する集計値に訂正があります。
  転帰不明追跡不能例の中で臨床経過が判明した症例が出たため、この程、ホームページ上で訂正いたしました。

 以下の数値は
-----------------------------------------
がん種、全症例数、評価済み症例数、有効、長期不変・無増悪(1年以上)、無増悪(6ヶ月以上1年未満)、無効、評価済み症例中=改善率1、転帰不明追跡不能、転帰不明=無効とした場合=改善率2、経過観察中
-----------------------------------------
の順です

 脳腫瘍では、
<訂正前>
-----------------------------------------
脳、102、46、8、7、5、20、38、19、25、37
-----------------------------------------
<訂正後>
-----------------------------------------
脳、102、58、8、12、3、27、40、29、25、15
-----------------------------------------

 胃がんでは、
<訂正前>
-----------------------------------------
胃、52、28、1、5、0、18、25、15、15、9
-----------------------------------------
<訂正後>
-----------------------------------------
胃、52、29、1、6、0、18、28、14、18、9
-----------------------------------------

 この結果、全体の数値にも訂正があります。
<訂正前>
-----------------------------------------
全体、744、346、53、47、25、166、34.4、183、21.1、215
-----------------------------------------
<訂正後>
-----------------------------------------
全体、744、359、53、53、23、173、35.1、192、21.5、193
-----------------------------------------
となります。

従って、前回お伝えしました全体の改善率1
   34.4%
は、
   35.1%
が新しい数値となります。

 この数値は、先週3月18日以前にホームページに掲載していた古い数値(評価済み症例数がまだ全174症例だった当時の)「改善率1=35.0%」とほとんど変化がなく、学術的にみて厳密とは言いがたいソフトクライテリア評価であっても、症例数が十分あれば、臨床効果に関するかなり安定した評価が可能と考えられます。

 脳腫瘍では、前回お伝えしました改善率1は38%とされていましたが、40%が新しい数値となります。胃がんでは、改善率1は25%ではなく、28%が新しい数値となります。

 また、脳腫瘍のページの代表的症例は、脳腫瘍専門医の診断により、すべて悪性度の高いグレード3以上に達しているとされた症例ばかりでしたが、その説明が抜けており、グレード2のままと誤解される表現になっておりました。

 症例<232, 273, 299>はこの点を明確化する記述を追加しました。いずれもソフトクライテリアでは、改善例として評価された症例です。

 しかし、症例<239,297,435>は、厳密な確定診断ではなく、グレード2との境界領域と考えられる症例であることから、代表的症例から除外し、経過観察中の症例に分類いたしました。

 どうかこちらのページから、訂正された各がん種のページをご覧下さい。
  ・全体 → http://www.aftvac.com/vaccine2-2efficacy.htm
  ・脳腫瘍の治療実績と症例
      → http://www.aftvac.com/Brain-efficacy.htm
  ・胃がんの治療実績と症例
      → http://www.aftvac.com/Stomach-efficacy.htm

 ----------------- ----------------- -----------------
  ここでいうソフトクライテリアとは(それに対する学術的に厳密なハードクライテリアもあります)、こちらに解説があります。
        → http://www.aftvac.com/hc-sc-what.htm
  ----------------- ----------------- -----------------

  No.

172


 
09.03.25
自家がんワクチン療法--ソフトクライテリアによる評価表を更新--更に症例報告を追加公開--
        先週3月18日に発信しましたセルメディシンニュースNo.89にて、自家がんワクチン療法受診例(投与未満で中止した55例を除き)、291例を対象としたソフトクライテリア評価の一覧表を更新したことを報告いたしました。この中で、
   34.4%
の症例で、改善効果が見られています。

 この表に続けて、各がん種ごとの代表的症例について、短い経過報告をがん種ごとに追加し公開しましたので、ご覧いただければ幸いです。

 症例数はそれぞれ、
  大腸がん 16例
  乳がん   8例
  脳腫瘍  23例
  肺がん   8例
  肝がん  16例
  胃がん   7例
  卵巣がん  4例
  腎がん   5例
  子宮がん  3例
  膵がん   2例
  その他のがん:
    甲状腺がん 2例
    メラノーマ  1例
    胆管がん   1例
    舌がん    1例
    喉頭がん   1例
    前立腺がん 1例
    中皮種    1例
    組織球腫   1例
です。

 こちらのページから、各がん種のページをご覧下さい
   → http://www.aftvac.com/vaccine2-2efficacy.htm

  No.

171


 
09.03.18
免疫を抑えるT細胞が、免疫応答を促すヘルパーT細胞へ分化
       今週のScience誌に、「免疫を抑えるT細胞が、免疫応答を促すヘルパーT細胞へ分化」するという論文が掲載されています(1)。

 これは、理化学研究所免疫・アレルギー科学総合研究センターからの報告で、Foxp3+ T Cellが腸管のPeyer's PatcheでFollicular B HelperT Cellに分化するというものです。解説が
→ http://www.riken.jp/r-world/info/release/press/2009/090313/index.html
に掲載されています。

 最終分化したはずのT細胞が、新たな機能を獲得して全く別の機能を発揮する細胞に再分化するというのは、従来常識にはない驚きです。

REFERENCE

1.Masayuki Tsuji, Noriko Komatsu, Shimpei Kawamoto, Keiichiro Suzuki, Osami Kanagawa, Tasuku Honjo, Shohei Hori, and Sidonia Fagarasan. Preferential Generation of Follicular B Helper T Cells from Foxp3+ T Cells in Gut Peyer's Patches.
Science 13 March 2009: 1488-1492.

  No.

170


 
09.03.11
自家がんワクチン療法--ソフトクライテリアによる評価表を更新
       
 自家がんワクチン療法は、今年3月9日時点で累積受診症例数が900例を越えました。ひとえに臨床現場に採用していただいた先生方のご協力の賜物と感謝しております。おかげさまで、最近も受診症例数が増加しつつあります。

 昨年6月末時点で、症例の経過報告を一旦締め切り、48種類のがん種および原発不明に分類の上で、評価可能であった346例について、ソフトクライテリアの観点から評価した一覧表を、この程更新しました。自家がんワクチン専用ホームページ上でご覧下さい。

 ただし、評価済み症例から、自家がんワクチンを1コース(ワクチンとしては3回接種、その前後にDTHテスト注射を行うがこれはワクチン接種にカウントしない)投与未満で中止した55例を除き、291例を解析対象としております。

 こちらです → http://www.aftvac.com/vaccine2-2efficacy.htm

 ----------------- ----------------- ----------------- ----------------- -----------------
  ここでいうソフトクライテリアとは(それに対する学術的に厳密なハードクライテリアもあります)、こちらに解説があります。
        → http://www.aftvac.com/hc-sc-what.htm
  ----------------- ----------------- ----------------- ----------------- -----------------

 今回採用したソフトクライテリアの定義では、従来、弊社ホームページで公表してきた定義から、若干の改訂を行いました。1年以上または6ヶ月以上の「無再発」を、1年以上または6ヶ月以上の「無増悪」に改めたものです。
  それぞれのがん種ごとに、症例を以下のように分類しました。

 1)改善:残存腫瘍サイズ縮小、腫瘍マーカー減少、推定余命より2倍以上の延命、QOL(KPS評価)の明らかな改善等
   の数値化できる指標のいずれか; 主治医の評価による何らかの臨床上の好ましい反応があったもの(→ 53例)
  2)長期不変・無増悪(1年以上):ワクチン投与後1年以上無再発あるいは無増悪(→ 47例)
  3)無増悪(6ヶ月以上1年未満)(→ 25例)
  4)無効(→ 166例)

 弊社では、臨床現場で自家がんワクチンの効果があったと実感していただけるのは、1)の明瞭な改善効果が見られた症例だけではなく、2)の長期不変・無増悪(1年以上)の症例も、そうであろうと推定しておりま す。

 しかし、3)の無増悪(6ヶ月以上1年未満)では、がん免疫分野の学会では有効例に分類すべきだという議論が多々ありますが、臨床現場では、「これは効いた」という実感が湧かないことも多く、学術的に厳密なハードクライテリアではないソフトクライテリアのレベルであっても、有効と主張するのは、未だ困難であろうかと思われます。

 このような情勢から、〔改善例数+長期不変・無増悪(1年以上)例数〕の割合「改善率1」と定義して算出してみますと、
   (53+47)/291 = 34.4%
となり、2007年2月6日時点までのデータ(解析対象は174例)35%とほと んど変わらない結果となりました。

 また、今回の解析では、1コースの自家がんワクチン接種を完遂したにもかかわらず「転帰不明追跡不能」となった症例が183例ありました。これらを、仮に、全例無効として「改善率2」を算出してみましたところ、
   (53+47)/(291+183) = 21.1%
となりました。

 すなわち、全体の「1/3〜1/5」の症例で「自家がんワクチンを接種しておいてよかった」と思っていただけるものと思います。

 現在、自家がんワクチン療法を含め、自由診療ベースのがん免疫療法を受診されている患者様のほとんどが、いわゆる“がん難民”に相当する末期がんの方々であることを考えれば、「改善率1」(より厳しくとった「改善率2」でも)の割合は、強力な化学療法を追加実施した場合に比べて遜色はなく、問題となる有害事象がほとんどない上、高いQOLが維持できるというメリットが非常に大きいと思われます。

 ご意見を直接弊社までお寄せいただければたいへん有難く存じます。

  No.

169


 
09.02.23
非小細胞肺がん:先に化学療法、後からワクチンでも良い場合がある
       
 非小細胞肺がんstage IIIBまたはIVで、ファーストラインの化療後になお残存する肺がんを追加化療でなんとかしようとしても、常識的には非常に困難とされています。更なる強力な化療にはかなりの危険が伴います。

 そこで、キューバのグループは、このような化療後の進行肺がんで、未だ骨髄機能が残っている症例に、抗EGF抗体を誘導するワクチン投与を試みています(ワクチンの種類は自家がんワクチンとは異なる抗体誘導を目的としたものですが、免疫反応を惹起しようとする目的は同じです)。

 抗EGF抗体が誘導され血中EGFが低下したグループでは、生存期間中央値が11.7ヶ月でした。誘導されにくかったグループ(3.7ヶ月)や対照群(5.3ヶ月)よりも予後がよい(p=0.0002)と報告しています(1)。

 論文を見ると、実際には、ファーストラインの化療4週後に低用量のcyclophosphamide(200mg/m^2)を投与、一旦白血球数を急減させ、回復期に入る3日後からワクチンを毎週1回筋注、4週後からは月1回にして継続投与し、しかも遠隔転移巣がある場合には局所放射線治療を後から追加しています。

 こうした細かい工夫を重ねることによって、化療だけでは治癒の見込みがない進行がんであっても、免疫療法でかなりの延命が期待できるとなれば、進行がんの「術後再発」例に対してもあきらめることはありません。

 化療後の骨髄機能回復を待って「がんワクチン」を投与すれば、治癒に至らずとも無駄ではなく、それなりの延命効果は期待できると推定されます。

REFERENCE
 
1. Vinageras EN, et al.: Phase II Randomized Controlled Trial of an Epidermal Growth Factor Vaccine in Advanced Non-Small-Cell Lung Cancer. J Clin Oncol 26, 1452-1458, 2008.

(お知らせ)
****************************************************************
1.「初発の脳腫瘍」について新たな臨床研究が始まっています
  - 適格の患者様には、大幅な優遇措置があります -

(具体的なお問い合わせはこちらにお願いします ↓ )

 *筑波大学附属病院・脳神経外科
    〒305-8576 茨城県つくば市天久保2-1-1
    TEL: 029-853-3220(脳神経外科医局)
  または、
  *東京女子医科大学病院・脳神経外科
   〒162-8666 東京都新宿区河田町8-1
    TEL:03-3353-8111
    (代表、ここから脳神経外科医局につないでもらってください)

2. 「再発肝がん」について新たな臨床研究が始まっています
  - 最先端の陽子線治療が筑波大病院で、非常に有利な条件で受けられ
   ます -

(具体的なご相談はこちらにどうぞ ↓ )

 *筑波大学附属病院・陽子線医学利用研究センター
    〒305-8576 茨城県つくば市天久保2-1-1
    TEL: 029-853-7100 FAX: 029-853-7102
E-mail: proton_therapy@pmrc.tsukuba.ac.jp
****************************************************************

  No.

168


 
09.02.16
パラフィン包埋組織からの遺伝子発現検査
       
 がん組織中のがん抗原ペプチドは、ホルマリン固定操作でもほとんどが壊れないことは既に知られていますが、このほど、ホルマリン固定組織でも、定量的なmRNA発現検査が可能であることが示され、しかも、予後と遺伝子発現との相関解析までなされました(1)。

 びまん性大細胞型B 細胞リンパ腫(DLBCL)を対象に,ホルマリン固定パラフィン包埋組織ブロックを用いた遺伝子発現解析を行い,rituximab (R)-CHOP 療法下の生命予後予測に有用な遺伝子を探索した結果、MYC が高発現(至適cutoff 値は>80%),HLA-DRB が低発現(同< 20%)の症例群でoveall survivalが有意に短く、予後不良となることが明らかにされました。

 このことは、ホルマリン固定を経たパラフィン組織中でさえ、タンパク以上に不安定とされているmRNAもかなり良い状態で保存されており、遺伝子発現レベルの検討にも耐えうる良好な状態にあることを示しています。

 弊社の自家がんワクチンは、ホルマリン固定がん組織を原料に作成しておりますが、(パラフィン包埋ブロックも含めて)ホルマリン固定がん組織中のがん抗原は、十分安定に保たれていると考えられます。

 がん組織のパラフィン包埋ブロックを民間検査会社に預けたままにして3ヶ月以上放置した場合、廃棄処分されてしまうことがあります。

 医療機関の先生方には、有用な残存がん抗原を有効利用するため、ぜひ、もとの患者様にパラフィン包埋ブロックを返却されますよう、ご配慮の程お願い申し上げます。

REFERENCE
 
1. Rimsza LM, Leblanc ML, Unger JM, Miller TP, Grogan TM, Persky DO, Martel RR, Sabalos CM, Seligmann B, Braziel RM, Campo E, Rosenwald A, Connors JM, Sehn LH, Johnson N, Gascoyne RD.:Gene expression predicts overall survival in paraffin-embedded tissues of diffuse large B-cell lymphoma treated with R-CHOP. Blood. 2008 Oct 15;112(8):3425-33.

  No.

167


 
09.02.09
大腸癌転移症例にBevacizumab(アバスチン)とCetuximab (アービタックス)を併用するとかえって予後を悪化させる
       
 先週のNew Eng J Med(2月5日号)に、表題のような論文が掲載されました(1)。

 755例の未治療大腸癌転移症例をランダムに2群にわけ、
   対照群(capecitabine, oxaliplatin, bevacizumab、378例)と、
   追加治療群(上記にcetuximab(anti-EGFR抗体)を追加、377例)
を比較したところ、progression-free survivalは、
   対照群で10.7ヶ月
   追加治療群で 9.4ヶ月 (p=0.01)
となり、QOLスコアも後者で低く、Grade 3,4の有害事象も多いという結果でした。

 “More is not always better”というDana Farber Cancer Inst.のProf. RJ Mayerのコメントが出てます。
  (→ http://www.bloomberg.com/apps/news?pid=20601124&sid=avVMsOpLVVpg&refer=home )

 転移のある大腸癌症例の複合的抗体療法では、慎重さが必要です。

REFERENCE

1.Tol J, et al., Chemotherapy, Bevacizumab, and Cetuximab in Metastatic Colorectal Cancer. New Eng J Med 360:563-572, 2009.

  No.

166


 
09.02.06
新たな脳腫瘍の臨床研究が始まりました
       
 「がんワクチン療法研究会」では、脳腫瘍のうち、最も難治性といわれる膠芽腫を対象に、2005年7月より「膠芽腫患者に対する自家腫瘍ワクチンを用いた臨床第I/IIa相共同研究」(UMIN試験ID:C000000002)を東京女子医大、筑波大にて実施して参りました。この症例登録は一昨年10月で終了し、現在はフォローアップ段階に入っております。中間解析段
階では、現在の標準的な治療法に劣らない結果となりつつあります。

 しかし、この臨床研究は、膠芽腫に対する標準的な抗癌剤テモダールが日本における国家承認を受ける前にスタートしていたため、
   「膠芽腫手術 → 放射線治療+自家腫瘍ワクチン」
というプロトコールになっておりました。

 今回、テモダール投与を含む現在の標準的な膠芽腫治療法、「膠芽腫手術 → 放射線治療+テモダール」に、さらに自家腫瘍ワクチンを上乗せする形で、
   「膠芽腫手術 → 放射線治療+テモダール+自家腫瘍ワクチン」
というプロトコールで、新たに臨床研究をスタートさせることになりました。このプロトコールは既にUMINに登録されています。

 UMIN試験ID: UMIN000001426
  試験簡略名: 膠芽腫に対する自家腫瘍ワクチン/テモゾロマイド共同研究

 初めて脳腫瘍のうちの膠芽腫(グレードIV)であることが判明した患者様で、手術前の方は、以下の大学病院にご相談下さい。専門医から詳細な参加登録条件が提示されます。条件が合えば自家腫瘍ワクチンを併用した臨床試験に参加可能です。

 試験内容・費用の詳細については、UMINのホームページ
   https://center.umin.ac.jp/cgi-open-bin/ctr/ctr.cgi?function=brows&action=brows&type=summary&recptno=R000001734&language=J
にてご確認ください。 臨床研究として一部の治療費が研究費から負担されます。

 現時点では全25例で登録終了とする予定です。具体的なお問い合わせはこちらにお願いします ↓

 *筑波大学附属病院・脳神経外科
    〒305-8576 茨城県つくば市天久保2-1-1
    TEL: 029-853-3220(脳神経外科医局)
または、
  *東京女子医科大学病院・脳神経外科
   〒162-8666 東京都新宿区河田町8-1
    TEL:03-3353-8111
    (代表、ここから脳神経外科医局につないでもらってください)

  No.

165


  09.02.03
再発肝がんについて新たな臨床研究が始まっています
  - 最新の陽子線治療が筑波大病院で受けられます -
       
 筑波大学附属病院・陽子線医学利用研究センターでは、本邦でも数少ない陽子線照射によるがん治療を行っており、国の先進医療制度にて混合診療を実施することが認められています。

 陽子線治療は、肝細胞がんに有効で、5年間の観察で約90%が制御されるという非常に優れた治療成績をあげています。がんが1個しかない50人の患者様の5年生存率は、手術とほぼ同等の53.5%でした。

 → http://www.pmrc.tsukuba.ac.jp/kanzou.html

 このほど、「再発肝がん」に対し、陽子線治療と免疫療法を組み合わせた臨床研究が新たに始まりました。

 この臨床研究に参加を希望される場合、厳密な参加登録条件の事前審査がありますが、条件を満たされた患者様につきましては、陽子線治療は先進医療とはならず、免疫療法の費用もかかりません

 筑波大学から案内文が弊社に来ておりますので、転載します。この参加登録条件に合うと思われる患者様は、筑波大学附属病院・陽子線医学利用研究センターにお問い合わせください。

 筑波大学附属病院は、「つくばエクスプレス」なら東京・秋葉原から快速で45分(つくば駅)、そこから1.6km、タクシー3分です(バスもあります)。

  -----------------------------------------

        【再発肝がんに対する臨床研究】

 陽子線治療は肝がんに対する局所療法としてとても優れた治療法ですが、その後の肝内再発を防ぐことが現在重要な課題となっています。

 そこで筑波大学陽子線医学利用研究センターでは、再発肝がんに対して陽子線治療と新たな免疫療法を組み合わせた臨床試験を行っております。以下のような条件を満たし、本試験にご参加いただける場合、先進医療は適応されず、陽子線治療と免疫療法に関する費用はかかりません。

 現在の主治医とよくご相談の上、受診方法を読んでご連絡いただければ、担当医が必ず対応いたします。

【臨床試験の目的】

 再発肝がんに対する、陽子線照射と新たな免疫刺激剤を投与する治療法の安全性と有効性(再発予防効果)について検討する。

【本臨床試験にご参加いただくための条件】

   1)肝がん再発と診断されている
   2)陽子線治療が可能でありメリットもある
   3)がんの大きさが画像診断法によって測定可能である
   4)6ヵ月以上の生命予後が見込まれる
   5)陽子線治療を行うための肝予備能がある
   6)事前に化学療法を受けている場合は、骨髄機能が十分回復している
   7)腎機能が正常である
   8)時に介助が必要であるが自分でやりたいことの大部分は自分でできる
   9)年齢は満20歳以上で80歳未満である
   10)病名および病状をよく理解している
   11)本臨床研究後も当院または当院の関連施設に通院可能である

 ただし以下の患者様は対象となりません。

   1)過去5年以内に肝がん以外の悪性腫瘍の既往がある、または現
     在罹患していると疑われている
   2)自己免疫疾患の既往がある、または、現在罹患していると疑われている
   3)HIV(いわゆるエイズウイルスのことです)に感染している
   4)本臨床試験を行うことが困難と考えられるような合併症がある
   5)本治療法施行前の4週間以内に、(1)抗がん剤または副腎皮
     質ステロイド剤を全身投与したことがある、または、(2)全
     身に影響する放射線照射または生物学的治療をしたことがある
   6)妊婦、授乳婦、および妊娠している可能性、またはその意志がある

 ご参加いただくには所定の説明書による説明を受けていただいたうえで所定の同意書によるインフォームドコンセントが必要です。

(具体的なご相談はこちらにどうぞ ↓ )

 *筑波大学附属病院・陽子線医学利用研究センター
    〒305-8576 茨城県つくば市天久保2-1-1
   TEL: 029-853-7100 FAX: 029-853-7102
   E-mail: proton_therapy@pmrc.tsukuba.ac.jp

  -----------------------------------------

  No.

164


  09.01.19
HCV感染者は肝細胞がん以外に肝内胆管がんにも要注意
       C型肝炎ウイルス感染経験者は、肝細胞がん(HCC)を発症しやすいことは良く知られていますが、同時に肝内胆管がん(ICC)発症のリスクも高いことが、このほど大規模疫学調査で明らかにされました(1)。

 El-Seragらは、146,394人の感染経験者を対象にcohort studyを行い(対照は572,293人の非感染経験者)、HCC:1679例、ICC:37例、肝外胆管がん:75例、膵がん617例を発見しています。

 発症リスクを計算すると、HCCは対照群の15倍、ICCは2.5倍となっています。しかし、肝外胆管がん、膵がんの発症リスクは有意に高いわけではないそうです。

 HCV感染者は肝細胞がん以外にも、肝内胆管がんにも要注意です。

 肝内胆管がんは発生頻度が少ないとはいえ、治癒切除後の再発リスクが高く、5年生存率は50%程度、非治癒切除例ではわずか2%(2)、手術しなければ1年はもたないといわれ、予後不良です。

REFERENCES

1. El-Serag HB, Engels EA, Landgren O, Chiao E, Henderson L, Amaratunge HC, Giordano TP.: Risk of hepatobiliary and pancreatic cancers after hepatitis C virus infection: A population-based study of U.S. veterans. Hepatology. 2009 Jan;49(1):116-23

2. http://siclinic.blog57.fc2.com/blog-entry-18.html

  No.

163


  09.01.05
スーパー特区プロジェクト
       
明けましておめでとうございます。
  旧年中は皆様にはたいへんお世話になり、誠に有難うございました。グローバル経済は激動の1年でしたが、弊社はおかげさまにて落ち着いた1年でした。

 しかし本年は、がんワクチン療法を取り巻く環境が間違いなく激動の時代に入ります。昨秋、内閣府による「スーパー特区」プロジェクトが開始されましたが、裏づけとなる予算措置が取られておらず、いわば未だお題目の段階でした。それが本年4月からは政府予算がつき、がんワクチン開発、それも商業化開発が本格化するからです。

 このスーパー特区プロジェクトで採択された全24課題中、がんワクチン開発に直接関わる課題が3課題もあります。
   1.「免疫先端医薬品開発プロジェクト−先端的抗体医薬品・アジュバントの革新的技術の開発」
   2.「迅速な創薬化を目指したがんペプチドワクチン療法の開発」
   3・「複合がんワクチンの戦略的開発研究」

 国の予算をもらう以上、これら3課題とも、5年以内に実用的な研究成果、実際にヒト臨床で役に立つ種類の異なる「がんワクチン」そのものを作りあげ、それを世の中に送り出さなくてはなりません。すなわち、本当にヒトのがん治療に使えるという国家の証明付きの医薬品を出すべし、という義務を負うことになるのです。そのため、それぞれの研究課題を実施する多数の大学群の後には、課題ごとに企業が一体となってサポートする体制を取っています。

 これは、大学による「研究成果を上げ論文をだせばよい」という従来のような単純な図式とは全く異なるステージに入ったこと、3課題間の研究競争だけではなく、その後に控える企業間競争の号砲も同時に鳴ったことを意味しております。

 弊社も「自家がんワクチン」で蓄積してきた技術を応用する形で協力し、スーパー特区プロジェクトの末席に連なることになりました。「自家がんワクチン」は、自由診療ベースで実用化してから既に7年、着々と臨床効果をあげており、高い治療実績を示してきています。特に昨年11月に開催された第5回がんワクチン療法研究会では、低用量抗がん剤や放射線治療との併用により、難治性がんにも治療効果・再発抑制効果があることが、続々と症例報告で示されました。無作為対照ランダム化臨床試験で、明瞭に術後肝がん再発予防効果があるというエビデンスレベルの高い臨床データもある「自家がんワクチン」の強みが、他の難治性がん治療ステージでも発揮されているためと思われます。

 しかも、「自家がんワクチン」は、ペプチドワクチンや単一がん抗原タンパクワクチンと相反するものではなく、がん組織そのものを抗原としている故に、ペプチドワクチン等ではカバーできない未知のがん抗原や、がん組織に特徴的なストローマ細胞群由来の抗原をも含んでおり、患者さん個々人特有のがんワクチンとなっています。両者の同時併用も含めて、共存可能な技術となり得る特徴を備えているのです。

 読者の皆様におかれましては、すでに実用化している「自家がんワクチン」の一層の有効利用をお考えくださいますよう、どうか本年もよろしくお願い申し上げます。

     
      Dr.通信 from セルメディシン 2008年分はこちらにあります → クリック